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【社説】2020年11月4日:期待を裏切った上場郵政の5年間/開発の力が落ちていないか

期待を裏切った上場郵政の5年間

記事本文

www.nikkei.com

要約

日本郵政は上場したものの株価が低迷している。

感想

一昔前は「郵政民営化」という言葉をよくニュースで聞き、華々しいイメージとともに語られることが多かったものの、最近の日本郵政は保険の不正販売や、ゆうちょ銀行の不正引き出し被害等が発生しており、あまり良い噂を聞きません。

 

そもそも郵政民営化の経緯に立ち返ると、有名なのは小泉元総理の「郵政解散」ですが、はじめは橋本内閣の行政改革会議までさかのぼります。

それはまだ財務省や経産省ではなく、大蔵省や通商産業省だった頃、行政改革の一環として当時の郵政省についても議論の俎上に上がりました。

 

1996年に行政改革会議が開かれ、翌年にまとめられた中間報告に郵政についての記載があります。

1997年9月3日 行政改革会議 中間報告(抄)

Ⅲ 省庁の再編

3 垂直的減量(アウトソーシング)のあり方について

(2) アウトソーシングの方針

○ 現業

郵政三事業

郵政三事業については、すべて民営化すべきであるとの意見もあったが、論議の結果、実現可能性及び民営化へのプロセスのあり方にも配慮する必要があり、また郵便局のネットワークの活用を図ることも必要である等の観点から、当面、次のようにすることが合意された。
ア)簡易保険事業は民営化する。
イ)郵便貯金事業については、早期に民営化するための条件整備を行うとともに、国営事業である間については、金利の引き下げ、報奨金制度の廃止等を行う。
ウ)資金運用部への預託は廃止する。
エ)郵便事業は、郵便局を国民の利便向上のためのワンストップ行政サービスの拠点とするなどの変更を前提として、国営事業とする
オ)国営事業であるものについては、国庫納付金を納付させる。
カ)国営事業として残るものについては、総務省の外局(郵政事業庁)として位置付ける。

 

その後も中間報告を土台として議論が進み、3か月後には最終報告が公表されました。

1997年12月3日 行政改革会議 最終報告(抄)

2 減量(アウトソーシング)の在り方

(1) 現業の改革

② 郵政事業

ア 郵政三事業一体として新たな公社(郵政公社)とし、法律により、直接設立する。(5年後に郵政公社に移行)

イ 新たな公社とすることにより、以下の点を実現する。
a 独立採算制の下、自律的、弾力的な経営を可能とすること。
(事前管理から事後評価への転換)
・ 主務大臣による監督は、法令に定める範囲内に限定
・ 予算及び決算は、企業会計原則に基づき処理するとともに、国による予算統制は必要最小限(毎年度の国会議決を要しない)。
(年度間繰越、移流用、剰余金の留保等を可能)
・ 中期経営計画の策定、これに基づく業績評価の実施。
(経営に関する具体的な目標を設定)
・ これらにより、民営化等の見直しは行わない(国営)。
b 経営情報の公開を徹底すること。
・ 財務、業務、組織の状況、経営目標と業績評価結果など経営内容に関する情報の徹底公開。
c 職員の身分については、設立法により、国家公務員としての身分を特別に付与すること。
・ 団結権、団体交渉権を付与し、争議権は付与しない。
・ 一般職の国家公務員と同様の身分保障を行う。
・ 総定員法令による定員管理の対象から除外する。

ウ 剰余金の国庫納付については、その是非を含めて合理的な基準を検討する。

エ 資金運用部への預託を廃止し、全額自主運用とする。

オ 郵便事業への民間企業の参入について、その具体的条件の検討に入る。

カ 報奨金制度については、経営形態の見直しに併せて検討する。

また総務省の節にも、郵政についての記載があります。

カ 郵政事業
総務省に、郵政三事業に係る企画立案及び管理を所掌する内部部局として郵政企画管理局(仮称)を置き、同事業の実施事務を所掌する外局(実施庁)として郵政事業庁を置く。郵政事業庁は、5年後に新たな公社(郵政公社)に移行する。

 

これらを読むと、中間報告の時には

  • 保険→民営化
  • 貯金→民営化の準備
  • 郵便→国営化

とされていましたが、最終報告では3事業をまとめて郵政公社とし、職員を国家公務員と同様に扱うというものに変わっており、改革が骨抜きにされてしまいました。

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この理由を探るために、3か月の間にどんな議論が行われたのか、行政改革会議の議事概要から調べてみました。

様々な意見が出ていましたが、要は「郵便局が無くなってしまうのではないかという国民の不安」を盾に、与党をはじめとする国会議員から反対圧力がかかっているようでした。

 

また、ちょうどこの頃山一證券の不正会計事件による破綻が発生しており、民間金融会社に不安を持つ人が増え、郵政の貯金事業を民営化することに向かい風が吹いていたということもあるでしょう。

 

世論やマスコミの報道をまとめた表がこちらです。

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出典:行政改革会議HP

ちなみに、郵政省(官僚側)からは以下の通り意見が出ています。

(個人的には、行政改革するのであれば官僚側は当然反発するでしょうからこれってどうなん?とは思いますが)

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出典:行政改革会議HP

 

11月14日には与党(自社さ)の会議で郵政について議論され、その動向を行革会議としても注視しています。

1997年11月17日 行政改革会議第37回会議議事概要(抄)

与党行政改革協議会については、11月14日に郵政三事業及び財政と金融についての議論が行われた。郵政三事業については、三事業一体で国営、具体的な組織形態についてはもう少し議論するということになった。本日も11時から与党行革協議会が行われたが、郵政について結論は出ず、明日再度行われる予定である。

 

その後政府・与党協議が行われ、11月21日の行革会議では、以下の通り方向性が定まっていたようです。

1997年11月21日 行政改革会議第41回会議議事概要(抄)

郵政事業については、三事業一体で国営とし、公社へ移行することとなった。法律により直接設立し、5年後に郵政公社とする。これにより、独立採算制の下で事業を運営し、事前管理から事後評価に転換する。考え方の基本は行革会議と同じである。資金運用部への預託は廃止し、全額自主運用とする。郵便事業への民間参入については、その条件の検討にはいる。職員には国家公務員の身分を付与し、団結権、交渉権は与えるが、争議権は与えない。これは一般職現業と同じであるが、総定員法の枠からは外れる。

この方針に対し、改革派から意見も出ていますが、結局は抑え込まれています。

 郵政三事業について、全額自主運用する場合に国庫に迷惑をかけないようにする文言が合意に入っていないが、これは国家保証を付けるとの意味か、運用によるリスクを国が負うようなことをして大丈夫か。

 自主運用については財政支援は行わないとの考えを提案し、説明したが、与党側の抵抗が強く、協議結果の整理からは落とすこととなった。今後、最終報告を得て、諸計画を策定するが、その際には原則として財政支援をしないとの精神を尊重し、そうした気持ちを持ちながら対処していきたい。

 

 郵政事業の改革は行政改革の理念にもかかわる問題である。今回の改革はこの理念を実現するための過程であって、理念と矛盾するものではないと理解してよろしいか。

 政府・与党協議においても基本理念は堅持しながら議論をしてきている。具体の改革については、組織、制度、業務、雇用等の関係について改革への賛否両論があった。30万人の職員を擁する事業体の組織形態の異動となるので過渡期が必要となり、基本理念だけでできるものではない。さりながら、基本理念は重要であり、これからも大切にしていきたいとの指摘があった。

こうして郵政事業は公社となり国営ではあるものの、独立採算制というちぐはぐな状態の民営化?をすることとなりました。

 

その後時は経ち、小泉純一郎元総理の時代、小泉内閣は郵政民営化を重要施策の一つとして掲げ、2003年から経済財政諮問会議で議論を進め、翌2004年には郵政民営化に関する論点整理を取りまとめ、郵政民営化の基本方針について閣議決定しました。

www5.cao.go.jp

政府を縛る閣議決定文書にも法案の提出が盛り込まれ、「確実な成立を図る」との文言まで入っていましたが、翌2005年の通常国会で衆議院は通過したものの参議院で否決されてしまいました。

小泉元総理はその日のうちに衆議院を解散し、郵政民営化に反対した自民党議員に公認を与えず、賛成派の新人に公認を与え選挙で圧勝しました。

そしてその後の特別国会で郵政民営化法は国会を通過しています。

 

2007年10月には郵政民営化が実現し、日本郵政グループ発足式が行われました。

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出典:官邸HP

奇しくも、その時総務大臣としてグループ発足式に立ち会った増田寛也氏が、いまは日本郵政社長として再建を託されているというのも、歴史の妙味を感じますね。

 

開発の力が落ちていないか

記事本文

www.nikkei.com

要約

三菱重工はジェット機の開発を迷走の末凍結した。

感想

2008年に三菱重工と経産省がタッグを組み、官民で「日の丸ジェット」を開発しようと意気込んでいたものの、多額の費用を投入しながら納入延期を繰り返し、プロジェクトを事実上凍結してしまいました。

おそらく「これだけ長期間、多くの開発費をかけてきたんだからやめてしまったらすべて無駄になる」と考えてしまう「コンコルド効果」が働いていたのではないかと思います。

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コンコルド

三菱重工は自前主義にこだわっていましたが、航空機の生産は30年以上前に終わっており、経験や技術ノウハウが不足していました。

ボーイング社に納入するような部品生産はしていたものの、完成品をつくるのとはまったくわけが違います。

工程管理、すなわちプロジェクトマネジメントには、プレイヤーとは異なる技術や経験が求められます。

 

2018年には自前主義からの脱却として海外の技術者を招いたものの、現場で対立が起き、さらに開発が遅れる事態となりました。

三菱重工は今年10月30日に公表した中期経営計画で、ついに事実上の事業凍結を決断したのです。

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出典:三菱重工HP

www.mhi.com

 

こうした企業の事業判断を考えるにあたって、自分が模範としているのは富士フイルム代表取締役会長兼CEOの古森重隆氏です。

forbesjapan.com

古森会長は当時写真フイルムの市場縮小を会社全体で共有し、目をそむけずに現実を認識したことが、将来を予測する強力な根拠となったと語っています。

氏の著書「魂の経営」はそうした経営判断の状況や心理状態をつづっており、硬直的なイメージの日本企業とは全く違う、機敏な判断とタフな精神力を学ぶことができます。

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今まで力を入れてきた、歴史ある事業にはプライドやこだわりもあるでしょう。

しかしそれに固執するあまり、企業全体の屋台骨が揺らぐようでは「木を見て森を見ず」と指摘せざるをえません。

 

国産ジェット機プロジェクトはうまくいきませんでしたが、なぜ失敗したのか、そうした経験は蓄積されているはずです。

現実を直視した上で、今後はその知見を活かした事業を進めてもらいたいですね。