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【社説】2020年10月27日:50年脱炭素化は困難でも攻めの発想で/大局観がやや希薄な首相演説

50年脱炭素化は困難でも攻めの発想で

記事本文

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要約

2050年までの脱炭素化目標を政府が打ち出した。

感想

菅総理は今月26日に開会した臨時国会で、所信表明演説を行いました。

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環境問題に関する演説部分は以下の通りです。

令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説(抄)

三 グリーン社会の実現

 菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。
 我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。
 もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。
 鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションです。実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進します。規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資の更なる普及を進めるとともに、脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設するなど、総力を挙げて取り組みます。環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていきます。世界のグリーン産業をけん引し、経済と環境の好循環をつくり出してまいります。
 省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。

印象的なのは、これまで安倍前総理が幾度となく語っていた「成長と分配の好循環」というフレーズを、「経済と環境の好循環」と改変しているところです。

経済政策を前面に押し出していた前政権と比べ、バランスを意識しているように思えます。

 

脱炭素社会に向けては原子力発電所の再稼働も選択肢の一つですが、他にも再生可能エネルギーや水素などがあります。

来年夏に予定しているエネルギー基本計画の見直しに向け、今月13日に経産省で有識者会議が始まり議論されています。

 

以前にも取り上げましたが、そこで俎上に上がった「ブルーリカバリー」すなわちアンモニアを燃焼させる発電方法が、炭素を排出しないエネルギーとして注目されています。

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現在は炭素を排出する火力発電がエネルギー全体の77%を占めており、これを可能な限り縮小し、再生可能エネルギーを増やして主力電源化を目指しています。

上記のアンモニア発電も、実用化を進めていくべきでしょう。

 

一方で、火力発電所をはじめとする発電設備の投資を加速させるような「電力容量市場」という政策も行われています。

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安定的な電力供給を目的としていますが、必要以上に供給力を確保するあまり、脱炭素化が進まない事態が発生しては本末転倒です。

 

EUや中国が脱炭素化に向け、政策と技術開発両方で世界をリードしている状況であり、日本も追いつけ追い越せという意識で強く推進していく必要があります。

そのためには、仲が悪いと言われる経済産業省と環境省が手を取り合い、総理が語ったように経済と環境の好循環を回していくことが肝要でしょう。

 

ちょうど「経産省内閣」が新政権で落ち目という報道もありますので、今後は官邸の方を向いて仕事をする必要もないでしょうから、これを良い機会ととらえて他省庁とも協力する姿勢で臨んでもらいたいものです。

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大局観がやや希薄な首相演説

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要約

所信表明演説の印象が弱い。

感想

すでに記事内でも紹介しましたが、昨日菅総理が所信表明演説を行いました。

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それが大局観に乏しく、あまり記憶に残らないと批判されています。

 

こうしたテキスト形式のデータが与えられた時、やりたくなることがあります。

そう、テキストマイニングですね。

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今回は菅総理の所信表明演説と、昨年10月に行われた安倍前総理の所信表明演説を比較してみました。

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まずは頻繁に使われているキーワードを抽出語リストで探してみましょう。

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左:菅総理 右:安倍前総理

これを見ると、上位の語句はあまり変化はありませんが、演説の時期(安倍前総理は昨年10月)の違いから、コロナ関連のワードが増えていることがわかります。

また安倍前総理は「皆さん」という言葉を頻繁に用いることで、国民に語りかけるような演説をしていましたが、菅総理は「国民」という言葉を多く使う傾向にあります。

 

ここでは表れていませんが、実際に演説を読むと安倍前総理は「~しようではありませんか」と国民を巻き込むような語り口をしていましたが、菅総理は「~してまいります」という宣言型に終始しており、きっちりと政府として仕事をしていく、ともすれば国民が相対的に疎外感を持つのではないかという印象を受けました。

 

階層的クラスター分析もやってみます。

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左:菅総理 右:安倍前総理

面白いのは、安倍前総理は頻繁に用いるワードを絞っていたのに対し、菅総理は様々な政策の紹介をするように多くの語句を用いている点です。

これも、演説が印象に残りにくいことの要因になっていると考えられます。

 

語句の関連性を示す共起ネットワークでも比較してみます。

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左:菅総理 右:安倍前総理

これを見ると、前政権に比べて「デジタル社会の実現」という政策目標が強く表れていることがわかります。

前政権では「自由で開かれたインド太平洋戦略」をはじめとする外交戦略も重視されていた印象ですが、現政権はそれを継承しつつ、発展させていくといった印象で、少なくとも「外交の安倍」のような存在感を見せることはまだのようです。

 

総じて、安倍前総理が話しかけるような語り口で、推し進める政策を重点化して理解しやすくしようとしていたのに対し、菅総理は多くの政策を語り、実際にどのようなことをするのかわかりやすく説明しようとしている印象です。

国民のために働く内閣」を標榜していますから、目を引くようなパフォーマンスはせず、堅実に仕事をしていくつもりなのでしょう。

同様に結果重視の内閣を組閣した際も、前政権では「仕事人内閣」と名乗りやはり注目を集めるような言い回しをしていたので、存在感が薄い政府になっていくかもしれません。

普段は目立たないけれど、いざという時に活躍する夜警のような行政になっていくのでしょうか。

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レンブラント・ファン・レイン「夜警」

余談ですが、この「夜警」という絵は元々昼の情景を描いたものの、表面のニスが黒ずんで夜の風景と勘違いされたそうです。

菅政権も政府主導で改革を進めようとしていますが、徐々に印象が薄れて夜警のようになるかもしれませんね。