platonのブログ

思考の整理とアウトプット、たまにグラブル

ExcelのVBAを使ってモーニングルーティンの手順書を書いてみる

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完成図

はじめに

いつも読んでいただきありがとうございます。

私事ですが、11月からちょっと環境が変化するため、今までのようにブログを書くことができるか不透明な状況となりました。

 

とはいえ、毎朝社説を読んで自分で調べ、読んだ本の内容等も織り交ぜながら文章を書いていくことはそれだけで自分の勉強になり、さらにブログとして表現することで理解が深まるのを実感しており、今後も継続したいと考えています。

 

そこで、ちょっと古いですがブログを書く時間を捻出するために効率的な「モーニングルーティン」を実践し、さらにそれを手順書として明文化することで余計な思考の手間を省き、さらにさらに手順書をExcelVBAを用いて動的な形に落とし込み、使いやすくしようと思います。

 

まだ開発段階ですが、試行錯誤の記録としてブログに書いておこうと思い筆を執りました。

しばしお付き合いいただけますと幸いです。

 

手順書に何を書くか

そもそも手順書とは

まず、「手順書」とは何ぞやというところからですが、これはマニュアルのようなものです。

「やらなければいけないこと」を書きだし、順番をつけてリスト化すれば、それはもう立派な手順書になります。

そこから「誰がやるか」「締め切りはいつか」などを書き加え、誰が読んでも理解できる体裁にすれば、仕事のマニュアルになるでしょう。

行動の書き出し

今回作成する手順書は「自分のためのモーニングルーティン」についてなので、自分がわかればそれで十分です。

まずは起床から家を出るまでの手順を書きだします。

  1. 朝目を覚ます
  2. ベッドから出る
  3. 窓を開けて空気を入れ替える
  4. ・・・

といった感じにやっていきます。

自分の場合は28項目ありました。

 

Excelで手順書をつくる

次に、それらをExcelに書いていきます。

もちろん、手順を書きだす段階からExcelに書き込んでいてもOKです。

ちなみに表形式で書いた項目を選択して「テーブルとして書式設定」を押すと、簡単にきれいなデザインの表が出来上がるのでおすすめです。

チェックボックスを入れる

Excelに書いたら、どこまでやったかを確認できるようにチェックボックスを付けます。

上部に「開発」タブがあればそのまま進んでOKですが、おそらく初期設定では表示されていないと思うので、とりあえず表示させるところから始めましょう。

 

まずはExcel左上の「ファイル」から「オプション」を開きます。

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「ファイル」→「オプション」→「リボンのユーザー設定」を開く

そして上記画像のように「リボンのユーザー設定」を開き、「開発」のチェックボックスにチェックを入れてOKを押します。

これで、「開発」タブが上部に表示されるようになりました。

 

次に、「開発」タブをクリックし、「挿入」から「フォームコントロール」の「チェックボックス」を選択します。

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上段左から3番目のアイコンがチェックボックス

するとマウスが範囲指定モードになるので、チェックボックスを設置した場所(上記画像の場合はB3セル)に適当に四角を書きましょう。

最初はボックス右にテキストが書かれているので、それは削除しておきましょう。

これをコピーしていくのですが、その前にVBAの設定をします。

VBAでチェックを入れた時点の時刻を表示・記録する

VBAの正式名称はVisual Basic for Applicationsであり、Excel上で動くプログラミング言語です。

プログラミングと聞くと複雑そうですが、実際はコードのコピペを駆使することで大抵のことはできてしまいます。

手順書レベルであれば複雑な処理は不要なので、十分VBAで記述できます。

 

今回VBAで実装したいのは以下の機能です。

  1. ボックスにチェックを入れたらその時点の時刻を記録する
  2. 全てのボックスのチェックを外すボタンを設置する

まず1を実装するため、チェックボックスを右クリックして「マクロの登録」から適当な名前をつけ、編集していきます。

具体的なコードは以下の通りです。

  1. Sub チェック1_Click()
  2. XOffset = 3
  3. YOffset = 0
  4. On Error Resume Next
  5. If ActiveSheet.CheckBoxes(Application.Caller).Value = Checked Then
  6. Range(ActiveSheet.Shapes(Application.Caller).TopLeftCell.Address).Offset(YOffset, XOffset).Value = Now
  7. End If
  8. End Sub

このコードにより、ボックスにチェックが入った時にそのボックスが設置されているセルから右に3つ移動したセルに「Now(=その時点の時刻)」を記録できるようになります。

 

この記述の良いところは、基準となるセルと時刻を記録するセルをそれぞれチェックボックスの位置から相対的に指定している点です。

つまり、チェックボックスがどこにあっても、同じ動きをしてくれるということです。

だから、コピペする前にVBAを書く必要があったんですね。

 

ここまで書いたら、あとはボックスをコピペです。

セル右下をドラッグしてオートフィルを使ってもいいですし、一番下の項目のセルからCtrl+Shift+↑を押してチェックボックスのあるセルまで選択し、Ctrl+Dを押して一括コピペしてもOKです。

もちろん手作りの温もりを求め、丹精込めて1つずつ作成しても構いません。

「2. 全てのボックスのチェックを外すボタンを設置する」についてはまた後ほど。

 

チェックを入れたら目立つようにする

次に、ボックスにチェックを入れた際にわかりやすくしてみましょう。

ボックスを右クリックして「コントロールの書式設定」を選択します。

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コントロールの書式設定

その後、「リンクするセル」にボックスの左のセル(下の図ではA3)を記入します。

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リンクするセルを記入

これでどうなるかと言うと、ボックスにチェックを入れた際に、「リンクするセル」で指定したセルに「TRUE」が表示されるようになります。

チェックを外すと、「FALSE」と表示されます。

これでチェックの有無を条件式に簡単に代入できるようになりました。

 

そしてこれは自分でも良いやり方が見つかっていないのですが、どうも「リンクするセル」の設定はチェックボックスをコピペしても自動で変わってくれないようです。

上の画像の例で「$A3」と相対参照を使ってみた跡がありますが、これをコピペすると「$A4, $A5, $A6, ・・・」とならずすべて「$A3」になってしまいます。

 

ゆえに非常に不本意なのですが、ボックス1つ1つを選択してセルを指定してあげなければなりません。

何か良い方法はないものでしょうか・・・。

 

気を取り直して、すべてのボックスにリンクするセルを設定し終わったら、次に条件付き書式の設定をしていきます。

ボックス左のセルが「TRUE」であれば、手順の背景色が変わるようにしてみましょう。

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条件付き書式の設定

ここの数式「=$A3=TRUE」はコピペすれば自動で変わるので、一番上のセルで設定したらあとは書式の設定をコピペすればOKです。

もしくは「条件付き書式の設定」から「ルールの管理」を開き、適用範囲を拡張してもOKです。

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条件付き書式ルール適用範囲の拡張

これで完了した行動がすぐにわかるようになりましたが、TRUEとFALSEが表示されるのが邪魔かと思います。

ですので、文字色を白にして見えなくしてしまいましょう。

全体チェック/全体チェック外しの設定

次にすべてのボックスからチェックを外す(並びにチェックを付ける)機能を実装しましょう。

一番下にボックスを作り、これまで同様リンクするセルを設定しておきます。

そしてマクロの登録(VBAの記述)です。コードは以下の通りになります。(セルの個数や位置によって変わります)

  1. Sub check_all()
  2. If Range("A32").Value = True Then
  3. Range("A3").Value = True
  4. Range("A4").Value = True
  5. Range("A5").Value = True
  6. Range("A6").Value = True
  7. Range("A7").Value = True
  8. Range("A8").Value = True
  9. Range("A9").Value = True
  10. Range("A10").Value = True
  11. Range("A11").Value = True
  12. Range("A12").Value = True
  13. Range("A13").Value = True
  14. Range("A14").Value = True
  15. Range("A15").Value = True
  16. Range("A16").Value = True
  17. Range("A17").Value = True
  18. Range("A18").Value = True
  19. Range("A19").Value = True
  20. Range("A20").Value = True
  21. Range("A21").Value = True
  22. Range("A22").Value = True
  23. Range("A23").Value = True
  24. Range("A24").Value = True
  25. Range("A25").Value = True
  26. Range("A26").Value = True
  27. Range("A27").Value = True
  28. Range("A28").Value = True
  29. Range("A29").Value = True
  30. Range("A30").Value = True
  31. ElseIf Range("A32").Value = False Then
  32. Range("A3").Value = False
  33. Range("A4").Value = False
  34. Range("A5").Value = False
  35. Range("A6").Value = False
  36. Range("A7").Value = False
  37. Range("A8").Value = False
  38. Range("A9").Value = False
  39. Range("A10").Value = False
  40. Range("A11").Value = False
  41. Range("A12").Value = False
  42. Range("A13").Value = False
  43. Range("A14").Value = False
  44. Range("A15").Value = False
  45. Range("A16").Value = False
  46. Range("A17").Value = False
  47. Range("A18").Value = False
  48. Range("A19").Value = False
  49. Range("A20").Value = False
  50. Range("A21").Value = False
  51. Range("A22").Value = False
  52. Range("A23").Value = False
  53. Range("A24").Value = False
  54. Range("A25").Value = False
  55. Range("A26").Value = False
  56. Range("A27").Value = False
  57. Range("A28").Value = False
  58. Range("A29").Value = False
  59. Range("A30").Value = False
  60. Range("E3:E30").ClearContents
  61. End If
  62. End Sub

長いのでFor文でループ処理をさせた方がいいかもしれませんね。

これが何を意味しているかというと、「A32がTRUE(=ボックスにチェックが入っている)になったら、A3からA30のすべてのセルもTRUEにする(=行動の背景色が変わり、リンクしているボックスにチェックが入る)」及び「A32がFALSE(=ボックスからチェックが外れる)になったら、A3からA30のすべてのセルもFALSEにする(=行動の背景色が戻り、リンクしているボックスのチェックが外れる)」、「時刻が記入されたE3からE30までのセルを空白にする」という動きです。

 

途中経過時間(ラップタイム)を計測する

ここは好みの部分かと思いますが、自分は行動に要する時間を見積もるのが苦手でいつの間にか時間が過ぎてしまい遅刻する、ということがよくあるため、「どの動作にどれくらいの時間がかかるか」を知りたいと思い、ラップタイムを計測できる機能も実装しました。

やり方は関数のみで、ラップを知りたい行動の完了時刻から直前の行動の完了時刻を引けばOKです。

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ラップタイムの数式

[@Time]はE4セルを選択したらいつの間にか変わっていました。

ちなみに「Minute」列はおおよその所要時間見積もりです。

散歩や食事、ブログといった時間がかかる行動以外のほぼすべての動作を1分としています。

「Minute」列と「Lap」列を比較することで、どの動作にどれだけ時間がかかっているかを目視し、見積もった所要時間をより正確な値にすることができます。

 

またこのままでは「Lap」列に「0:00:00」がズラッと並んでしまい気になるため、条件付き書式設定でセルの値がゼロの時、背景と文字が白になるようにします。

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条件付き書式の設定でセルを空白にする

最初は文字のみを白にしていましたが、表が縞模様のデザインであるためうっすら「0:00:00」が表示されるのが気になり、背景も白にすることとしました。

条件を付けたセルだけ最初から白くなってしまうので、表のデザイン的には改善の余地がありそうです。

例えば、「0:00:00」以外の時に文字を表示するようなVBAを記述するとかでしょうか。

 

完成

お疲れさまでした。

ここまでできれば、とりあえず使えるレベルにはなったかと思います。

 

あとは実際に使ってみて、改善点を見つけたらその都度修正していくという感じです。

自作なので、自分が欲しいと思う機能だけを実装して、自分好みに作りかえていくことが可能なところがいいですね。

以前iPad用の電卓を作成した時にも感じましたが、やはり自分で作ったものが動くのを見るのは、それだけで楽しい気分になります。

platon.hatenablog.jp

 

おわりに

昨日思いつきで作って今朝初めて使用し、項目を追加するなど試行錯誤しています。

将来的には、チェックボックスにチェックを入れたら好きなキャラクターの画像が表示されるとともに、キャラクターが褒めてくれる音声を再生するような機能を実装したいと思っています。

その際はインセンティブとモチベーションの研究も参考にしつつ、どのような画像を表示するのがいいのか、動画の方がいいのか、ランダム性は必要か、音声はどの程度の長さがいいのかといったことも自分で実験してみたいと考えています。

【社説】2020年10月22日:ASEAN訪問をアジア安定につなげよ/父も気兼ねなく育休取るには

ASEAN訪問をアジア安定につなげよ

記事本文

www.nikkei.com

要約

首相がベトナムインドネシアに訪問したのをきっかけに、日本はアジア安定の旗振り役になるべきだ。

感想

菅首相は今月、就任後初の外遊としてベトナムインドネシアを訪問しました。

コロナ禍からの回復に向けた連携をはじめ、日本が推進する自由で開かれたインド太平洋戦略の実現に向けASEANとの関係発展についても議論されたようです。

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自由で開かれたインド太平洋戦略(外務省HPより)

今回初の外遊として二国を選んだのは、アジア戦略ということの他にも親日国であるということも考慮に入れたのでしょう。

この訪問を足掛かりに、ASEANとの連携を密にしつつアジアの経済発展と安全保障をリードしていければと思います。

 

また首相の訪問に先立ち、ベトナムへ豪雨被害からの復旧のため40億円規模の医療物資等の支援、またインドネシアにも総額44億円以上の医療支援をしているほか、首相は会談でインドネシアの災害対応能力を高めるために最大500億円の円借款(ローン)を供与することを表明しました。

今年2月にも最大318億円の円借款を供与しており、これらはインドネシアの政策目標の進捗状況を日本も確認し、防災政策の改善を一緒に後押ししようとするものです。

 

こうした東南アジアをはじめとする国々への日本のODA(政府開発援助)は、「困っている国民がいるのに他の国を支援するなんて」「自分たちにその分のお金をくれ」といった感情論で語られる場面も少なくありません。

特にネットの普及、また一人ひとりが意見を表明しやすく、それが容易に増幅しうるSNS時代において目立ってきたように思えます。

 

ですが、こうした国際援助は短期的に利益を求めるのではなく、将来的な恩恵にあずかるために実施しているということを理解する必要があるでしょう。

それはさながら種芋をすぐに食べるのではなく、畑に植えて育てることで、やがて何倍もの芋を収穫することができるようなものです。

 

ヨハネ福音書十二章の24でイエスが語った「一粒の麦は、地に落ちて死なねば、いつまでもただの一粒である。しかし死ねば、多くの実を結ぶ」及びその後の節で「この世の命をかわいがる者は永遠の命を失い、この世で命を憎む者は、命を守って永遠の命にはいるであろう」という言葉があります。

ここまで考えて自ら犠牲を払うところまではいかなくても、国として一粒の麦(自分のご飯の一部)を支援に回し、多くの実(関係諸国並びに世界の発展とそこから得られる恩恵)を結ぶということが自分から進んで寄付をしたり、活動しなくても税金から自動的に処理されるのは、ある意味手間がかからず良いのではないかと思います。

 

日本国憲法第九条はしばしば自衛隊に関する議論で話題に上がりますが、戦力保持に関する部分の前に「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」すると明記されており、積極的な平和外交の手段として、国際援助は重要な手段の一つでしょう。

同時に、日本の将来世代へ負担をかける形で国際支援をしている現状を認識し、投資先の発展をどのように未来の日本に活かしていくか、そうした出口戦略も考えていく必要があるのではないでしょうか。

 

父も気兼ねなく育休取るには

記事本文

www.nikkei.com

要約

父親が育休を取得しやすくなる方法を考える必要がある。

感想

厚労省によると、令和元年10月1日時点の状況として男性の育児休業取得率は7.48%と上昇傾向が続いています。

女性の育休取得率は83%で、こちらはほぼ横ばいです。

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育休取得率の推移(厚労省「令和元年度雇用均等基本調査」より)

www.mhlw.go.jp

 

政府は、2025年に男性育休取得率を30%まで上げることを目標としています。

女性活躍政策の一環として公務員採用者の女性比率を30%以上にするという目標が掲げられた際には官邸からのプレッシャーがあったと耳にしますが、今回も同様なことが起こるかもしれません。

 

育児休暇を取得できる要件を満たしている場合に半ば無理やりとらせるように、「育休を取得できない理由」の申告を労働者や上司に義務付ける事業者も出てくるのではないでしょうか。

働き方改革で残業が規制され、「時間外労働をしなければならない理由」を申告する手間が増えたことと似ていますね。

 

一方育休取得者が増えることで、育休以外の様々な事情から休暇をもらいたいという人が休みを取りづらくなる懸念もあります。

休む人がやっていた業務をどのように分配するかというマネジメントも今後必要になってくるでしょう。

 

IT技術も駆使して効率的な業務を行いつつ、取引先に「担当者が育休を取得するので」といった相談をすることが日常的になり、業務の簡素化・代替可能化を社会全体で進めていければ良いと思います。

仕事は代替可能でも、子どもにとっての「親」という役割は唯一無二なのですから。

【社説】2020年10月21日:東証は証券界一体で再発防止に取り組め/給付金の不正受給を許すな

東証は証券界一体で再発防止に取り組め

記事本文

www.nikkei.com

要約

東証システム停止の再発防止策を関係者一体でつくるべき。

感想

今月1日、東京証券取引所のシステムが停止したことは記憶に新しいですね。

株や証券の取引が終日出来なくなり、日本経済の一極集中のもろさも浮き彫りになりました。

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東証Arrows内の環状電光掲示

取引所の一極集中自体は、効率性や合理性の観点からそれほど問題にはならないでしょう。

むしろやるべきは、システムに異常が発生した際にそれを迅速に検知・分析し、事前に定めた対処策に沿って速やかに解決にあたることです。

これは単なる機器の故障のみならず、サイバー攻撃への対応でも同様に考えられます。

 

昨今サイバー攻撃の手法や主体が多様化しており、どんなに防止策を講じていても、事故をゼロにすることは困難です。

そのため事故が起こることを前提として、そこからどう被害を最小化するか、さらに障害を排除していかに迅速に復旧するかを考えることが重要でしょう。

 

これは最新の考え方というわけではなく、政府が2009年に策定した第2次情報セキュリティ基本計画には、すでに「事故前提社会」というキーワードが記されています。

第2次情報セキュリティ基本計画(2009年2月3日策定)(抄)

第2章 第2次情報セキュリティ基本計画における基本的考え方と2012年の姿
第1節 第1次情報セキュリティ基本計画からの移行
(2) 第1次情報セキュリティ基本計画からの「継続」と「発展」

「事故前提社会」への対応力強化
 第二に、第2次基本計画の下では、事故が生じ得ることを前提とした形での対応力を強めること、すなわち「事故前提社会」への対応力強化を実現する。このため、関係者は、事前対策の取組みにもかかわらず情報セキュリティ上の問題が生じた場合を考え、事態の認知・分析、情報連絡、迅速な対応・復旧などの事後対応にも十分な目配りを行う。すなわち、あらゆる関係主体は、情報漏えい、情報システムのサービス機能低下・停止などの情報セキュリティ上の問題の発生を防止するべく事前対策に最大限の努力を行いつつ、それでも万が一の事態が有り得ることを認識し、これに向けた準備を怠らない。そして、万が一の事態においては、その影響範囲、影響の度合い、緊急度、原因などの事実関係を明らかにしつつ、迅速な対応・復旧を広く進めることで、事業継続性を確保する。
 「事故前提社会」への対応力強化に向けては、事故の可能性を完全に排除する情報セキュリティ対策の実現は容易ではないという点に関する理解(気付き)を社会全体で増進する必要がある。また、万が一問題が顕在化しても、気付きを持って自ら考える主体が、過敏な反応を起こさず、事実を冷静に受け止めて適切な対応を迅速に行うための取組みが不可欠である。
 なお、ここで「事故前提社会」とは、事故が有り得るから諦めて予防のための対策を行なわないということや、被害に遭うのは仕方がないことであると諦めるということを意味するものでは決してない。

10年以上前の政府文書ですが、今回の東証システム停止を鑑みるに非常に鋭く有用な考え方が示されており、舌を巻きます。

今の企業や政府機関のうち、いったいどれだけの主体がこの基本計画に書かれていることを実行できているでしょうか。

 

またこの基本計画は内閣官房に設置されている内閣サイバーセキュリティセンターのHPから閲覧することができますが、わざわざ調べようと思わない限り、知ることは無いでしょう。

上記は固い、いかにもお役所的なサイトですが、一般向けのセキュリティ普及啓発運動の一環として以下のサイトもつくられています。

www.nisc.go.jp

こちらは柔らかく、Twitterで広報もしているので(会議開催情報botと化していますが)、セキュリティについてより有効に啓発する方法があるのではないかと思います。

例えば、今回のような社会的な影響の大きいシステム障害が起きた際、企業経営者や投資家、金融・IT業界関係者はアンテナが高くなっているはずですから、その機を逃さず過去に策定された計画や文書等から関連した記述を抜粋しツイート、文書のリンクを載せてみてはいかがでしょうか。

 

「過去の膨大な文書から関連した記述を探すのは困難」ということであれば、コンピュータに過去の文書をテキストファイルで読み込ませておき、テキストマイニングで引っぱりだしてはどうでしょう。

また過去の文書を読み込ませておけば、頻出する語句やキーワード、さらにそれらの関連性も可視化できるので、「このキーワードに関係する事故が起こった際はこの文書を参考にできる」とあらかじめ決めておくのも良いでしょう。

 

これは「事故前提社会」を意識した事前の対策としても有効なはずです。

テキストマイニングの有用性については自分も過去実際に手を動かして学びました。

platon.hatenablog.jp

もし依頼があれば、喜んでやります。

 

給付金の不正受給を許すな

記事本文

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要約

個人事業主を対象にした持続化給付金の不正受給を防止する必要がある。

感想

コロナ禍で打撃を受ける中小企業・個人事業主に対し、経済産業省の外局である中小企業庁は「持続化給付金」という対策を打ち出しました。

具体的には、以下のような制度です。

  • ある月の売上が昨年の同月の売上の半分以下になったとき
  • 今年度の売上で任意の月(大抵は最も売上が少ない月)を選んで12を掛け、前年度の売上合計から引く
  • その差額がもらえる(中小企業は200万円まで、個人事業主は100万円まで)
  • ※企業は年度(4月~3月)、個人事業主は年(1月~12月)で換算

例えば昨年の9月に30万円の売上があったものの、今年9月に10万円の売上まで落ちていた場合、昨年の売上合計が300万円だったならば、今年9月の売上10万円×12か月=120万円を300万円から差し引いた180万円を受け取ることが出来る、ということです。

 

困っている経営者や事業主を救うために制度設計され、簡単に申請できるようにされておりますが、不正受給する例が相次いでいます。

具体例としては、虚偽の確定申告によって昨年収入があったと申告し、今年は収入ゼロのため差額をもらうといったことが行われているそうです(この手法で不正受給した大学生は捕まりました)。

サラリーマンや主婦、学生といった本来受給資格が無いはずの人たちに手口を教えて成功報酬を得る詐欺師も暗躍しているらしく、人間の悪知恵というかずる賢さというか、浅ましさに驚嘆します。

 

経産省はこうした事態への対処として、不正受給に対しては厳しい罰金や刑事告訴の可能性を示した一方で、自主返納をした場合にはペナルティを課さない考え方を示しています。

こうしたことから返金の相談が殺到しているそうですが、ここはもう一歩踏み込んで、「司法取引」を導入してはいかがでしょうか。

 

例えば、不正受給の罰金としては延滞金と加算金(2割)があり、すでに加算金に関しては梶山大臣が10月6日の会見で自主返納者からは徴収しないとしているので、延滞金の方を「不正受給の指南をした詐欺師や詐欺グループ、また不正受給をしている他の者」についての情報提供を行った場合に免除するといった取引をもちかけてみるのはどうでしょう。

上手くいけば詐欺グループを一斉摘発でき、怪我の功名になるかもしれません。

またこの仕組みは報奨金を与えるのではなく、罰金を減免するという措置であるため、詐欺グループと自主返納者が共謀して報償を繰り返し受け取るといった新たな不正も防げるでしょう。

 

今後、こうした不正受給にかかる自主返納の動きのなかで「自分も不正かもしれない」と悩む人に「こちらに相談してくれれば行政に申告した際に不正とされないようにする」と言ってだますような詐欺が登場する可能性も考えられます。

詐欺を防ぐ仕組みづくりは大切ですが、我々一人ひとりが不正を行うのは悪であり、自分の身を滅ぼすことを理解する必要があるでしょう。

 

ソクラテスが「ゴルギアス」の中でポロスに語った「不正を行って罰を受ける者よりも、不正を行って罰を受けない者の方がより不幸だ。なぜなら不正を行う方が不正を受けるよりも醜く、すなわち不正を行う方が悪いことであり、悪をなすものは不幸であるから」という教訓を忘れずに、「ばれなければ大丈夫」という考え方はやがて自分を不幸にさせるということを意識して行動する人が増えてほしいものです。

【社説】2020年10月20日:復調道半ばの中国経済に残された課題/タイ反体制デモ双方が自制を

復調道半ばの中国経済に残された課題

記事本文

www.nikkei.com

要約

中国経済は復調しつつあるが、さらなる伸びには課題もある。

感想

世界経済が先進国から新興国まで停滞するなか、中国の7~9月実質経済成長率は前年同期比4.9%となりました。

4~6月の成長率は3.2%だったため、経済は正常化しつつあります。

 

今年1~3月は初のマイナス成長となりましたが、コロナウイルスを封じ込めたとして早期に外出制限を撤廃、また世界的なマスク需要やテレワークでのPC端末需要等で再度成長を始めました。

 

こうした状況を見ると、1929年の世界恐慌においてのソ連を思い出します。

資本主義社会を標榜する西側諸国を中心に経済のグローバル化が進んでいたところ、一国(アメリカ)の経済危機が貿易等でつながる各国に波及し、世界的な大不況となりました。

 

この間、1922年に成立したソビエト連邦は1928年から始めた第一次五か年計画の最中であり、国が土地や工場を国有化して経済活動を統制していたためほとんど影響を受けませんでした。

(もちろん、その裏で様々な弾圧・粛清が行われていたことも考慮しなければならないでしょう。)

 

91年前の恐慌と異なるのは、今の中国がかつてのソ連のような共産主義ではなく「社会主義市場経済」を導入している点です。

中国の憲法を読むと、社会主義市場経済の他にも「社会主義的民主主義」や「社会主義的法制度」といった理念が書かれており、社会主義金科玉条としていることがわかります。

後段に国民主権言論の自由も明記されているものの、憲法第一条に「いかなる組織又は個人も、社会主義制度を破壊することは、これを禁止する」と記載されており、こうした条文の構成からも中国が大切にするものがわかる気がします。

www.togenkyo.net

ソ連と比較すると、今の中国は他国とも多く貿易しており、国際経済に積極的に参加しているように思えます。

一方、米国との貿易摩擦による技術覇権争いといった強硬的な態度も目立ちます。

個人消費はいまだ弱さがみられる状況であり、「強い中国」を堅持するための戦略が、国民感情に疑問や不安を抱かせている可能性もあります。

 

イデオロギーが欧米をはじめとする先進国と異なるという点もありますが、そうした点をお互いに理解しようと努力していくことで歩み寄りが見られるのではないでしょうか。

また宇宙的な視点に立てば、「国」というプレイヤーが最大勢力のため、そこで覇権を争っているという考え方もできるでしょう。

もしも金星や火星といった他の星に生命があり、地球と同様な文明を築いていれば、「国対国」の対立ではなく「星対星」の競争となり、地球代表として一致団結する姿が見られるかもしれません。

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アポロ17号によって撮影された「ザ・ブルー・マーブル」

タイ反体制デモ双方が自制を

記事本文

www.nikkei.com

要約

体制に反発するデモ隊も政府も自制が必要。

感想

タイで学生を中心とした反体制デモが勃発しており、政府との対立が深まっています。

今回学生らは以下の3点を要求しています。

  1. 軍政の流れをくむ政権の退陣
  2. 軍政下で定められた憲法の改正
  3. 王室の改革

このうち3つ目の「王室改革」に政府は神経をとがらせています。

 

タイでは王室が神聖視されており、不敬罪もあります。

www.pri.org

他に不敬罪を有する国々が罰金や数年の禁固刑であるのに対し、タイでは最大で15年の禁固刑が言い渡される可能性があり、世界的に見ても王室に対する尊重の念(及び害を与える者への処罰)が大きいと言えるでしょう。

 

一方、政府も弾圧するだけではなく、憲法改正に向けた動きも見せています。

www.jetro.go.jp

タイではおよそ10年ごとに憲法が改正されており、近年では1997年、2007年、2017年に改められています。

延期されたものの、憲法改正の要件緩和などを盛り込んだ改正案を11月に採決するとしています。

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確かに強権的な、非民主的な政権に対して抗議の意を示すことは民主主義国家として当然のことでしょう(タイは国王を元首とする民主主義制です)。

ですが、これまで王室は国民に敬愛されてきた経緯もあり、人々の間でも学生らに反発する団体が出現しています。

 

暴力的手段に訴えても国内外の支持を得ることは難しいでしょうから、反政権側も憲法改正の動きに協力し、迅速な制度改正、そしてより良い体制を国全体で作り上げていく姿勢が必要なのではないでしょうか。

そうすることで状況は異なりますが、無血革命として有名な17世紀のイギリス名誉革命のように後世まで語り継がれることとなるでしょう。

【社説】2020年10月19日:デジタル教科書の活用へ制度改正を/統一30年ドイツと絆を太く

デジタル教科書の活用へ制度改正を

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要約

デジタル教科書の普及に向けた制度設計が必要。

感想

コロナ禍は様々な分野に変革を促しており、その1つが教育の場です。

教育における改革の論点は主に2点あり、1つは遠隔・オンライン教育、もう1つはデジタル教科書の活用です。

 

1つ目の遠隔・オンライン教育は今年前半の緊急事態宣言発令下において、外出・接触を可能な限り減らす観点から学校の授業が休止された折に注目を浴びました。

これで革新が進むかと思いきや、学校の通信回線が未整備であったり、家庭によっては端末に不備があることから、憲法第二十三条の「学問の自由」及び第二十六条の「教育を受ける権利と受けさせる義務」に違反しないかという恐れから及び腰になった学校が多くありました。

 

また教育基本法第十九条に「経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない。」という文言があります。

自治体はこのために、もし遠隔教育を実施しても様々な事情で参加できず授業で学ぶことが難しい家庭があった場合、市町村が端末を提供等する必要があるのか、また学校の回線整備費用を支払う等の必要があるかを考えたのではないでしょうか。

 

ただでさえコロナ禍で財政悪化をしている行政は支出が多くなる可能性がある道よりも、「知らぬが仏」という態度をとったのではないかと思います。

この自治体の戦略は、昨日の記事で取り上げた囚人のジレンマに似た印象を受けます。

platon.hatenablog.jp

 

2つ目のデジタル教科書については、遠隔・オンライン教育とともにちょうど最近も議論されています。

文部科学省の審議会である中央教育審議会が10月16日に開催され、配布資料にデジタル教科書についての記述があります。

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この会議で配られた配布資料1-2「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(中間まとめ)【本文】の該当箇所を抜粋すると、以下の通りです。

「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(中間まとめ)(抄)

第Ⅱ部 各論

6.遠隔・オンライン教育を含むICTを活用した学びの在り方について

⑤デジタル教科書・教材の普及促進

○ICTを活用した取組の促進と併せて、学習者用デジタル教科書*についても普及促進を図ることが重要である。このため、学習者用デジタル教科書の今後の在り方等について、その効果・影響等について検証しつつ、使用の基準や教材との連携の在り方も含め、学びの充実の観点から検討を行うことが必要である。また、当該検討結果を踏まえた本格的な導入が見込まれる令和6年度の小学校用教科書の改訂までの間においても、学習者用デジタル教科書・教材の学校現場における使用が着実に進むよう普及促進を図る必要がある。

 

*紙の教科書の内容の全部(電磁的記録に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材。学校教育法等の一部改正(平成30年法律第39号)により、平成31(2019)年4月より、紙の教科書を主たる教材として使用することを基本としつつ、文部科学大臣の定める範囲で、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用することが可能となった。

仕方がないとはいえ、本当に長ったらしい文章ですね・・・。

要は「デジタル教科書は紙の教科書と同じ内容にしてね」「本格的に使うとしても令和6年度(4年後)以降だよ」ということです。

 

遅すぎやしないかと言いたくなりますが、これでも法改正によって昨年4月からデジタル教科書の使用が可能となり、進歩はしているそうです。

また文科省の審議会ではデジタル技術は教育のために必要としつつも、対面・オフラインでの学びも重要と語っており、その二項対立といった軸で考えてはならないとしています。

 

彼らの考え方には賛同できますが、現在のような紙の教科書と同一の内容のデジタル教科書ではどちらかの選択を強いられ、ひいては紙とデジタルの対立を招いてしまいかねません。

オフラインとオンラインを組み合わせた「Education Mix」を行い、地図帳や資料集といった絵や図・音などで理解を深めるためにデジタル教科書を使い、教科書検定がネックとなるのであれば、デジタル教科書はアプリやソフトのように定期アップデートを行うこととすればよいでしょう。

文科省や新設が見込まれるデジタル庁が、App storeGoogle play storeのようなプラットフォームを提供し、手間や労力のかかる大規模な検定をするのではなく、デジタル教科書提供会社が更新ファイルをプラットフォームに送信し、問題があればそれらをアップロードせず、改善点を明示して修正してもらう仕組みを導入してみてはいかがでしょうか。

 

統一30年ドイツと絆を太く

記事本文

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要約

東西ドイツから30年、国際協調に向け日独が協力して働きかけたい。

感想

30年前の1990年10月3日、東ドイツと西ドイツが統一されました。

ちなみに象徴的なベルリンの壁崩壊は、前年1989年11月10日の出来事です。

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ブランデンブルク門近くのベルリンの壁に登る東西ベルリン市民

以降のドイツは自由貿易の恩恵にあずかり、EU欧州連合)の盟主として、経済的・政治的にヨーロッパをリードしてきました。

ですが、近年ではイギリスのEU離脱をはじめ、米中の自国優先主義と対立、ロシアのアフリカ干渉といった国際秩序の揺らぎに直面しています。

 

こうした中難しいかじ取りを迫られるメルケル独首相は、来年で最終任期である4期目を終えます。

その点では日本の菅総理も同様であり(解散総選挙という道もありますが)、国際社会に協調の道筋を残そうと最後の力を振り絞るメルケル首相に政治家として共感し、協働することができるのではないでしょうか。

 

いま、各国は経済停滞もあいまって自国第一主義保護貿易に走り、自ら壁をつくろうとしています。

ベルリンのみならず、世界の「壁」を壊し国際秩序の構築に向かうドイツの動きに付き添い、促し、協力することが日本に期待されています。

 

「恋は渾沌の隷也」とギリシア神話との関連について

はじめに

皆さんは、「這いよれ!ニャル子さん」というアニメをご存知でしょうか。

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アニメ「這いよれ!ニャル子さん

こちらはアメリカの小説家ラヴクラフトが構築したクトゥルフ神話をモチーフにした、逢空万太氏によるライトノベルが原作のラブコメアニメです。

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原作「這いよれ! ニャル子さん

コメディ要素も面白く、ヒロインのニャル子さんも可愛らしい人気アニメです。

その2期である「這いよれ!ニャル子さんW」のオープニング主題歌となったのが、今回考察する「恋は渾沌の隷也(こいはカオスのしもべなり)」です。

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アニメ2期OP「恋は渾沌の隷也

クトゥルフ神話とは

作品のモチーフになったクトゥルフ神話について簡単に解説すると、20世紀前半にアメリカの小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品群により形作られた空想上の概念であり、その後様々な作家によって著作の根底に存在する世界観として書き継がれています。

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ハワード・フィリップス・ラヴクラフト

この神話は太古の地球を支配していた旧支配者が現代に蘇ることを共通のテーマとしており、ニャル子さんの元になった「ニャルラトホテプ(Nyarlathotep)」も旧支配者の一柱です。

 

ラヴクラフトが著した作品に「ニャルラトホテプ」や「這いよる混沌(The Crawling Chaos)」があることから、ニャルラトホテプは異名として「這いよる混沌」と呼ばれることもあります。

ラノベタイトルの「這いよれ!」はここに由来しているのでしょう。

 

ラヴクラフトの作品に登場するニャルラトホテプは変幻自在に姿を変える異形として描かれており、かつ彼が宇宙的恐怖を内包する怪奇小説家であったことから、なかなかグロテスクな見た目で描写される場合が少なくありません。

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ニャルラトホテプの一例

恋は渾沌の隷也の考察

さて、ようやく本題です。

ちょっと目の保養のために、ニャル子さんの画像をはさみましょうか。

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ニャルラトホテプの一例(日本版)

このアニメ2期の主題歌「恋は渾沌の隷也」ですが、一見するとラブコメである本作を簡潔に表したようなタイトルに思えます。

しかし、この作品が「クトゥルフ神話"のみ"をモチーフにしている」という先入観を捨ててみると、次の考えが頭に浮かびます。

 

恋(=エロス)は渾沌(=カオス)のしもべなり

→この主題歌はギリシア神話を元にしているのではないか?

 

ギリシア神話について

プラトンの作品に登場する人物が頻繁に口にする「ゼウスに誓って言うけど」というフレーズで有名なゼウスを主神とする神話体系がギリシア神話です。

そこにはゼウスをはじめヘラやポセイドン、アテナといったオリュンポス十二神と、その敵としてのゼウスの父クロノス率いる神々(ティターン十二神)との争いを含む魅力的なエピソードが多数収録されていますが、ここでその神話について簡単に解説しようと思います。

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ニコラ=アンドレ・モンシア「オリュンポス十二神」

今回参考にしたのは、ギリシア神話の原典とされる古代ギリシア叙事詩人ヘシオドスの「神統記」です。

彼によると、まず世界のはじまりとしてカオス(渾沌)が生じたそうです。

次いでガイア(大地)やタルタロス(奈落)、そしてエロス(美、愛、恋)が生じたとのこと。

ガイアはウラノス(天)を生み、支配者となったウラノスの子どもとしてクロノスが生まれました。

 

このクロノスは父ウラノスを憎み、母ガイアの助けを借りてウラノスの陰部を鎌で刈り取り去勢したのです。

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ジョルジョ・ヴァザーリ「クロノスとウラノス

そして刈り取られた陰部は海に投げ込まれ、しばらくするとその周囲の泡から女神アフロディーテ(ヴィーナス)が誕生しました。

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サンドロ・ボッティチェリヴィーナスの誕生

クロノスも子どもをつくりましたが、自分が父ウラノスにしたように王座を奪われるという恐れから、子どもたちを飲み込んでしまいました。

何とか逃れた末っ子ゼウスは成長し、やがて父クロノスが飲み込んだポセイドンやハデスといった兄弟たちを助け出します。

 

クロノスは巨体を持つティターンの神々を率い、ゼウスはオリュンポスの神々を率いて戦い、ゼウスが勝利をおさめます。この戦いを「ティタノマキア」と呼びます。

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コルネリス・ファン・ハールレム「打ち負かされるティターン

その後現れた裏ボスのテュポーン(ガイアとタルタロスの子ども)も打倒し、彼らを奈落のタルタロスに幽閉します。

 

戦いに勝利したゼウスは神々の王となり、その息子がまた王位を継ぐ見込みでしたが、生まれる前に妻を飲み込むことで王位継承の流れは終わり、ゼウスが君臨し続けることとなりました。

 

以上が、「神統記」に描かれているギリシア神話の概説です。

ヘシオドスは、エロスについて原初の神々の一柱であったとしつつも、他の神々のような子孫の系譜等を一切書いていません。

 

では、エロスはどんな神なのか。

それを知るのにうってつけなのが、プラトンの「饗宴」です。

 

エロスをテーマした飲み会「饗宴」

プラトンは恩師ソクラテスを登場人物とする対話篇で、文学的美しさをもって哲学を語ることで知られていますが、彼の著作の中でもひときわ芸術的輝きを放つのが「饗宴(きょうえん)」です。

これは現代で言う「飲み会」のようなもので、当時のギリシア人は飲み会の際に仲間たちと様々な議論をしていたことからこの作品は生まれました。

 

作中には「二日酔いで今夜は飲めない」と言う者や、途中で駆け付け「お前ら飲んでなくない?」と大きな杯に酒を注いで自分で飲み干し、また注いで隣に渡して順に飲むことを強要する者、いつの間にか眠っていて起きたらまだソクラテスと数人が飲んでいたことを目にする者など、大学生の宅飲みのような様子が描かれており、そうした描写を読むだけでも非常に面白い作品です。

 

本作で飲み会のテーマとして挙げられたのが「エロス」についてです。

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エロスの彫像(一部修正)

なぜこのテーマになったかというと、飲み会の参加者の一人が「他の神々を賛美する歌はたくさんあるのに、あれほど偉大な神エロスを賛美する歌が無いのはおかしいじゃないか」と言い出し、それでは各々がエロス賛美の演説をしようという話になったためです。

 

登場人物たちは、次のようにエロスを語っていきます。

  • パイドロス(言い出しっぺ):エロスは最も古い原初神の一柱だから偉い。
  • パゥサニヤス(弁論家):エロスには気高きものと万人向けのものとの2種類あり、前者は徳に向かうが、後者は俗物に愛される。
  • エリュキシマコス(医者):2種のエロスがあることには同意するが、それらの調和が大切。
  • アリストファネス(喜劇作家):人間は元来2人で1つの球体だったが、ゼウスによって分けられ今の形になった。人を愛するのは元の姿になろうとするためであり、自分の片割れを探し出すためにはエロスを賛美すべき。
  • アガトン(悲劇作家):エロスは最も美しく優れた神であり、他の者にも良い影響を与える。
  • ソクラテス(主人公):エロスは美醜や善悪の中間に位置しており、智慧(ちえ)を求める愛智者(フィロソフィア)である。なぜなら、すでに智慧持つ智者である神々は智者になろうとはしないし、無知な者もまた智者になりたいと思わず、その中間にある者が智慧を望むのだから。そして人が幸福のために美を愛するなかで「永遠不変の美(美のイデア)」を観るに至ることこそが生きがいであり、そのためにはエロスが最も良い助力者となるのである。

彼らはこのようにしてエロスを語り、美と愛・恋の神として賛美します。

 

恋はカオスのしもべなのか

さて、ここで本題に立ち返ります。

「恋はカオスのしもべなり」という曲名がクトゥルフ神話のみに由来しているのではなく、ギリシア神話とも関係していることは、ヘシオドス、そしてプラトンによって明らかにされました。

では、饗宴の参加者になったつもりで、ギリシア神話の視点からこの曲について考察してみましょう。

 

神話で恋(=エロス)はカオスやガイア、タルタロスと同期の原初神とされておりますが、3柱の神々がそれぞれ子孫を生み出しているにも関わらず、エロスにはそうした描写はありません。

もしもエロスがカオスのしもべなのであるとするならば、さしずめ同期が出世して家庭を持ち、片や独身の自分が部下になったようなものでしょうか。

 

またエロスは世界の始まりの一節以外にも一度だけ登場します。

彼は、ウラノスの陰部の泡から誕生したアフロディーテが神々の仲間に入る際に、エスコートをするという役割を果たしています。

ですが会社の行く末を決めるゼウスとクロノスとの争いでも登場しなかったことから、エロスは本当に窓際社員だったのかもしれません。

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窓際社員となったエロスのイメージ

しかし、原初神たる彼は会社における会長と同期で入社しており、ゼウスとしても扱いに困ったのではないでしょうか。

カオス=会長が現役社員の頃はしもべ=部下として働くこともあったでしょうが、カオスが一線を退き、クロノスやゼウスの時代になってからは、そうしたこともなく窓際族として悠々自適に暮らしていたのではないかと思います。

 

というわけで、「恋はカオスのしもべか」という問いに対しての答えは、「以前はそうだったが、今はもう違う」となります。

 

おわりに

クトルゥフ神話の創始者ラヴクラフトのルーツについて調べていたところ、彼は6歳ごろにはギリシア神話を元にした物語を自作していたそうです。

そうした幼少時代を考慮すると、クトゥルフ神話をモチーフにしたニャル子さんの主題歌がギリシア神話とつながっていることにも合点がいきますね。

 

ちなみに問いの答えと似たフレーズである「前はいたが、今はもういない」というセリフで有名なのは、皆さんご存知国民的アニメ「蒼穹のファフナー」に登場する「カノン・メンフィス」ですね。

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カノン・メンフィス

シリーズ最新作の「蒼穹のファフナー THE BEYOND 7-8-9話」が2020年11月13日から映画館で先行上映されます。

大ヒット上映中の鬼滅の刃に勝るとも劣らないほど印象深い作品であり、シリーズ中にはティターンの名も登場しますので、気になった方はぜひ。おすすめです。

【社説】2020年10月18日:米中半導体摩擦の激化と日本の針路/デジタル課税の合意を早く

米中半導体摩擦の激化と日本の針路

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要約

米中対立のなか日本の半導体産業は復活を目指す。

感想

トランプ米大統領習近平中国国家主席は仲が良いとは言えず、GDPの世界第1位と2位という大国同士で対立しています。

それが健全な競争によるものであれば世界全体の技術革新につながると好印象を持てるのですが、相手を落として自国の利益を生みだそうとしているように見えます。

 

一方が輸出規制をかけると、もう一方も対抗措置として輸出規制をする、そうした二国間の摩擦は、ゲーム理論の「しっぺ返し戦略」をとっているとも考えられます。

しっぺ返し戦略とは、いわゆる「囚人のジレンマ」というゲームが何度も行われる「無限回繰り返しゲーム」を元にしています。

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囚人のジレンマにおける利得行列

上記の利得行列はお互いが協調するとそれぞれ2の利益を得られ、お互いに裏切ると1の利益しか得られず、一方だけが裏切ると裏切ったプレイヤーは3の利益、裏切られたプレイヤーは利益を得られないということを表しています。

ここで自分がPaの立場で考えてみると、相手Pbが協調の戦略をとる場合自分は協調すると2、裏切れば3の利益を得られるため裏切りを選択、相手が裏切りの戦略をとる場合自分は協調すると0、裏切れば1の利益を得られるためこちらも裏切りを選択することが最適な戦略になります。

相手も同じことを考えるため、お互いが自分の利益を最大化させる戦略をとると(裏切り, 裏切り)となり、(協調, 協調)を選択した場合より利益が少なくなってしまいます。

 

囚人のジレンマではこうしたゲームが1回しか発生しないと考えますが(囚人が共犯者を裏切って自白したらその時点で司法取引は終わるため)、外交の場に目を向けるとそれが1回で終わらないことがわかります。

その場合、何回ゲームが行われるかわからないということで「無限回繰り返しゲーム」と呼ばれます。

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映画 鬼滅の刃「無限列車編」

映画館が空いてきたあたりで観に行きたいです。が、人気すぎてなかなか空きそうにないというジレンマ。

 

この無限回繰り返しゲームでは、最適戦略は最初は協調を選択し、相手が裏切りをした場合は仕返しとして自分も裏切りを選択するという「しっぺ返し戦略」となります。

しっぺ返し戦略は企業の値下げ競争や環境問題、そして外交問題にも応用されています。

理論的には、米中がお互いに制裁を加えあうというのは両国の戦略としては適切であると言えるかもしれません。

 

ですが、人類全体の進歩という観点からするとどうでしょう。

お互いの成長のための資源を止めあっていると、両国とも疲弊してしまうのではないでしょうか。

確かに米国が中国への半導体供給を止めた場合、兵糧攻めに遭った中国は困り、そこで新たなイノベーションが起こり未成熟な中国の半導体産業が一気に発展する可能性もあるかもしれませんが、損失の方が大きいのではないかと思います。

 

大国である米中の対立は、両国のみならず貿易する多くの国々にも影響を与えます。

こうした状況のなか日本も半導体産業復活に向け研究開発を進めている動きがあります。

漁夫の利とまでは言えないかもしれませんが、米中のような自分たちの縄張り争いを他国に強いるガキ大将的な態度ではなく、中立的な立場の半導体供給源として日本が世界の発展をリードすることに期待しています。

 

デジタル課税の合意を早く

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要約

IT企業に対する国際課税のルールづくりは見送られた。

感想

先進国などで構成されるOECD経済協力開発機構)は今月12日、IT企業への国際課税問題についての合意を来年半ばまで延期しました。

www.oecd.org

元々この合意目標は今年7月までにしようと計画していたところ、10月まで3か月先送りしていた経緯があります。

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こちらの国際課税問題が何かと言うと、世界中で利用されるデジタルサービスを提供するIT企業(GAFA等)が、実際に支社や営業所を置いていなくても継続的かつ大規模な事業を行っている場所で、確実に納税させることを目的とする議論です。

IT企業をはじめとする多国籍企業により、各国は税源侵食と利益移転に悩まされていることから、こうした国際課税の必要性が叫ばれています。

 

OECDはこうした問題解決のため、以下の2つの柱を用意しました。

  1. 納税場所についての新たなルールと、各国間で課税権を分け合う抜本的に新しい方法を設定する
  2. 世界全体で最低税額を導入する

OECDは第一の柱が実現することで1000億米ドル(約10兆円)が各国に再配分される可能性があると見込んでおり、さらに第二の柱が実現することで年間で世界全体の法人税収が最大4%、または歳入が1000億米ドル増加すると予測しています。

まあこの税金はIT企業から徴収されるので、彼らからしたらたまったものではないでしょう。

 

元々課税ルールについて議論はされてきたものの、コロナの影響で停滞しているのが現状です。

新興国は経済停滞による財政悪化に対処するため独自課税に動いており、欧米の経済界は企業の新課税ルールへの適応に時間を要することからルールづくりを来年以降に延期するよう求めていました。

またIT企業が多く所在する米国では、課税適用外の企業を増やすことでルールの骨抜きをしようとする動きもあります。

 

OECDは無秩序な課税競争の横行により貿易紛争が起こった場合、世界のGDPが1%以上押し下げられる懸念を示しており、合意に基づく解決策を見出す取り組みをやり遂げねばならないとしています。

きちんとした課税の枠組みを作り上げることはもちろん大切ですが、企業が課税を嫌うことで海外展開を避けるような動きになっては本末転倒です。

 

サービス展開先の国で税収が落ち込むことが問題なのであれば、例えばトヨタ貿易摩擦の批判に対応して海外に工場を設置・現地住民を雇用したように、IT企業は各国に事業所や研究所等を設置し、ローカルできめ細やかなサービスを提供していくことなどを考えてみてはいかがでしょうか。

グローバル企業と各国政府の対立ではなく、歩み寄りによる解決の可能性もあるはずです。