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【社説】2021年1月26日:半導体不足が映す自動車産業の未来/東南ア高速鉄道は計画精査を

半導体不足が映す自動車産業の未来

記事本文

www.nikkei.com

要約

コロナ禍で自動車向け半導体の需給がひっ迫した今、サプライチェーンの改善を考えるべきだ。

感想

半導体というと「産業のコメ」とも呼ばれ、スマートフォンやパソコンなどといった電子機器に主に使われる素材という印象がありますが、自動車にも使われているようです。

そもそも半導体とは、電気を通す金属などの「導体」と、電気を通さないゴムなどの「絶縁体」の中間の性質を持つ物質や材料(シリコンなど)のことであり、広義にはそうした物質をもとにつくられたトランジスタや集積回路を「半導体」と呼ぶ場合もあります。

半導体を使うことで電気信号を通すところと通さないところに分け、思い通りに機器を制御することが可能になるというわけです。

www.seaj.or.jp

ちなみにトランジスタは信号の増幅やオンオフを切り替える機能を持つ部品であり、1948年に発明されてから、それまで真空管を使用していたため広いスペースが必要だったコンピュータの小型化・高性能化に成功しています。

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出典:村田製作所

当初は半導体の素材としてゲルマニウムが使われていましたが、約80℃で融けてしまうためより融点が高く(約180℃)安定的なシリコン(=ケイ素)が現在では一般的に用いられています。

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ケイ素で形成された安定的な生命体の例

デジタル社会が進む中で、あらゆる電化製品に使われて小型化・省エネ化をもたらしている半導体ですが、その生産にはコストや時間がかかるため、需要を見誤ってしまうと今回の自動車のように急に生産を増やす必要に迫られた際、部品が足りずに供給が追いつかないという事態になりかねません。

 

しかし経済が停滞しているのに、本当に自動車を欲しがる人が増えているのでしょうか。

それを探るため、地域・企業別に足元の景気状況を聞き取り調査から分析する内閣府の景気ウォッチャー調査(2020年12月)を読んでみました。

調査によると、下記のとおり確かに自動車の需要は日本全国で高まっているようです。

新車の受注について、12 月も引き続き前年の水準を上回っていることから、この傾向は当面続く。コロナ禍のなか、パーソナルな移動手段である乗用車の需要に底堅さが感じられる(北海道=乗用車販売店)。

自動車メーカーの新車投入効果もあって、2~3月の受注内示が増加している(北関東=輸送用機械器具製造業)。

自動車関連の増産対応のため、年末年始も工場をフル稼働させて対応する予定である。(北関東=一般機械器具製造業)。

新型コロナウイルスの影響で、電車やバス等の公共交通機関を利用していた人がマイカーを使用する頻度が高くなっている(南関東=乗用車販売店)。

製造業は半導体や自動車関連で持ち直しているが、全体の動きは鈍い見通しである。非製造業も新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、先行き不透明感が高まっており、厳しい状況に変化はない(甲信越=金融業)。

2~3か月前より取引先の自動車メーカーの生産量が相当戻ってきており、好調である(東海=輸送用機械器具製造業)。

車関係の生産回復で、金属材料生産用の消耗品の注文が増えており、しばらくこの傾向が続くと思われる(東海=窯業・土石製品製造業)。

自動車関連が前年並みにまでV字回復したが、一時的な動きか真の回復か、不安な部分がある(近畿=金属製品製造業)。

受注が回復傾向にあり、特に自動車関連の受注回復が顕著である(中国=鉄鋼業)。

自動車関連製品の需要が持ち直している(九州=化学工業)。

 

調査結果を読んでいて面白いなと思ったのは、コロナ禍で電車やバスなど公共交通機関を避け、マイカーを使う人が増えているという回答です。

私は自動車を所有していないため気づけませんでしたが、別の立場に立って物事を見ることの重要性を感じられますね。

また調査では、観光地において「Go Toキャンペーンの停止で打撃を受けている。早く再開してほしい」といった声も聞かれ、様々な考え方を知ることができる、なかなか興味深い内容となっていました。

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今後ますますIoT(Internet of Things)が浸透するなかで、半導体は自動車のみならずこれまで組み込まれていなかった製品にも搭載されるようになるでしょう。

その際、半導体を確保するために買取価格が高額になると、せっかく自動運転技術が実現しても自動車価格が高すぎて庶民には手が出せなくなってしまうかもしれません。

 

自動車メーカーには他製品の需要に負けないような市場の活性化を、半導体メーカーにはより低コスト・短期間で製造可能な新工程、あるいはシリコンに代わるさらにコスパの良い材料の発見を期待しています。

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え、ぼく(シリコン)解雇ですか?

 

東南ア高速鉄道は計画精査を

記事本文

www.nikkei.com

要約

東南アジアの高速鉄道計画撤回を機に、経済合理性を再点検すべきだ。

感想

2021年1月1日、新しい年が始まった最初の日に、シンガポールとマレーシアは共同で高速鉄道プロジェクトの計画撤回を発表しました。

計画ではマレーシアの首都クアラルンプールとシンガポールのジュロンイースト間の約350キロを90分で移動することを可能とし、経済発展を遂げる東南アジアの両国に良い効果をもたらすと考えられていました。

なお350キロは東京ー名古屋間と同じくらいで、新幹線のぞみでは約100分で到着します。

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出典:MyHSR Corporation

Joint Press Statement on the Kuala Lumpur – Singapore High Speed Rail Project (Jan 2021)

In light of the impact of COVID-19 pandemic on the Malaysian economy, the Government of Malaysia had proposed several changes to the HSR Project.

Both Governments had conducted several discussions with regard to these changes and had not been able to reach an agreement.

Therefore, the HSR Agreement had lapsed on 31 December 2020.

(抄訳)COVID-19のパンデミックがマレーシア経済に与える影響を考慮して、マレーシア政府はHSR(高速鉄道)プロジェクトにいくつかの変更を提案しました。

両政府はこれらの変更に関していくつかの議論を行い、合意に達することができませんでした

したがって、HSR協定は2020年12月31日に失効しました

▼シンガポール政府の発表

www.pmo.gov.my

▼マレーシア政府の発表(内容は同じです)

www.pmo.gov.sg

 

ちなみに「高速鉄道」の定義としては、日本では法律で時速200キロ以上で走行するものが「新幹線」と定められており、これを一般に高速鉄道とみなしています。

全国新幹線鉄道整備法(昭和四十五年法律第七十一号)

(定義)
第二条 この法律において「新幹線鉄道」とは、その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう。

国際組織のUIC(The International Union of Railways)によると「時速250キロ以上で走行するための専用の路線や、時速200キロまたは220キロまで速度を高めた在来線」を可能にする運行システム全体を指す言葉のようです。

High-speed rail combines many different elements which constitute a “whole, integrated system": infrastructure (new lines designed for speeds above 250 km/h and, in some cases, upgraded existing lines for speeds of up to 200 or even 220 km/h), rolling stock (specially-designed train sets), telecommunications, operating conditions and equipment, etc. 

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新幹線のような高速鉄道は経済発展の象徴的存在でもあり、日本でも1964年、東京ー新大阪間に東海道新幹線が開通した際には、戦後復興のシンボルとして人々に歓迎されました。

 

一方でいまは時代が変わり、コロナ禍で人と人との接触や移動が減少するなか、昔のような高速鉄道の優位性は薄らいでいるのではないかと思います。

もちろん、貨物輸送など鉄道が重宝される場面はまだまだあるでしょうから、経済的に納得感が得られるような開発計画を練ってもらいたいところですね。