〈脱・デジタル後進国〉ネット活用で株主総会での対話充実を
記事本文
要約
株主総会もデジタル技術の活用で効率的に運営すべきだ。
感想
会社法では、株式会社に対して株主総会を開催する義務が課せられています。
会社法(抄)
(株主総会の招集)
第二百九十六条 定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
同法では基準日に株を所持している株主は三か月以内に権利行使が可能になると定めています。
日本では多くの会社が決算日(3月末)を基準日としているため、そこから三か月以内ギリギリということで、6月下旬に株主総会が開かれることが多くなるというからくりです。
会社法(抄)
(基準日)
第百二十四条 株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。
2 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。
また株主総会については開催場所を定める必要があるとされており、2018年の国会答弁では、ネットとリアルを混ぜた総会は可能であるものの、ネットのみでの総会の開催は難しいとの解釈が政府より示されています。
2018年11月13日 第197回国会 衆議院法務委員会(抄)
○松平委員
・・・現行法の解釈を伺いたいんですが、ハイブリッド型とバーチャルオンリー型の株主総会、これは日本ではできるのかどうか、法律上許容されるのかどうか、これを伺いたいと思います。
○小野瀬政府参考人(法務省民事局長)
・・・ハイブリッド型の株主総会を行うことは、会社法上許容され得るものと解されます。
これに対しまして、実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容することができるかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております。
会社法(抄)
(株主総会の招集の決定)
第二百九十八条 取締役(前条第四項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主。次項本文及び次条から第三百二条までにおいて同じ。)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主総会の日時及び場所
二 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
四 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
ちなみに、3月期に決算を行う会社の株主総会の集中率は1995年をピークにして下がっております。
こう見ると、昔の集中度合いが半端ではないですね。
減少傾向とは言え総会開催日が偏っているのは事実であり、従来よりその是非については話題に上がっていましたが、今年は三密回避の観点からより多くの議論が巻き起こりました。
そこで今年4月に経済産業省と法務省は、株主総会運営に係るQ&Aを公表することとしました。
興味深いのは、総会の規模縮小や人数制限の結果、会場に株主がいなくても総会開催は可能としている点でしょうか。
Q1.株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主に来場を控えるよう呼びかけることは可能ですか。
(A)可能です。
会場を設定しつつ、感染拡大防止策の一環として、株主に来場を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。
なお、その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます。
Q2.会場に入場できる株主の人数を制限することや会場に株主が出席していない状態で株主総会を開催することは可能ですか。
(A)可能です。
Q1のように株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。
現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えます。この場合、書面や電磁的方法による事前の議決権行使を認めることなどにより、決議の成立に必要な要件を満たすことができます。
なお、株主等の健康を守り、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために株主の来場なく開催することがやむを得ないと判断した場合には、その旨を招集通知や自社サイト等において記載し、株主に対して理解を求めることが考えられます。
さらに経産省は「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」を昨年から立ち上げており、今年2月には「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しております。
企業側もこうした政府の動きに呼応し、経団連は10月に「株主総会におけるオンラインの更なる活用についての提言」を公表しました。
ここでは米国のバーチャル株主総会を例に出し、通信の安定やコスト面、外部への拡散リスクを懸念し映像なしの音声のみの開催が認められるよう求めています。
また諸外国ではバーチャルオンリーの総会が実現していることから、特例法等により日本でも開催可能にすることも検討するよう提言しております。
来年以降の感染症の動向は不透明ですが、今後はデジタル化やオンライン化の潮流に合わせ、株主総会の意思決定プロセスも電子化を進めていくべきでしょうね。
参院選の合憲判断に甘えるな
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要約
昨年参院選での一票の格差最大3倍という数字を、政治は重く見るべきだ。
感想
今月18日、最高裁は昨年7月の参議院選挙において、一票の格差が最大で3倍あったことに対し憲法に違反していないという判決を下しました。
判決文を読んでいて面白かったのは、合憲とするも追加で意見を付ける裁判官がおり、そこで提唱されていた「条件付き合憲論」という考え方です。
どういうことかというと、一票の格差がある状態では一応合憲としておき、住民が不利益を被っているという疑い(補助金や交付金が不当に少ないなど)が発生した場合に違憲とするやり方です。
この方はローレンツ曲線やジニ係数といった統計学の知識も豊富で、文字だらけの判決文の中にグラフが登場しているのが新鮮でした。
この裁判官は合憲とした上で意見を出しておりましたが、違憲と判断した裁判官もおり、そうした反対意見も読み込んでおくことは、今後の選挙制度を考えるにあたって非常に参考になるでしょう。
参議院選挙を考える上で難しいのは、衆議院と異なり半数改選という縛りがあることでしょう。
また選挙については立法府で定めるとしており、最高裁が制度改正を強いるのは憲法上難しいという考えもあります。
日本国憲法(抄)
〔参議院議員の任期〕
第四十六条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
〔議員の選挙〕
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
参院選とは関係ないですが、憲法を眺めていたところ、国民の権利について定めている条項にハッとしました。
〔自由及び権利の保持義務と公共福祉性〕
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
〔個人の尊重と公共の福祉〕
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
憲法に思想・良心の自由や表現の自由などが記されていることは何かと取り上げられますが、権利を濫用してはならない、また公共の福祉のために利用する責任があるという部分はそれほどクローズアップされていないように思います。
たまには、憲法を読んでみるのも学びがあって楽しいですね。