platonのブログ

思考の整理とアウトプット、たまにグラブル

【社説】2020年11月10日:バイデン氏勝利を秩序回復の契機に

バイデン氏勝利を秩序回復の契機に

記事本文

www.nikkei.com

要約

バイデン氏の大統領選勝利を機に国内外の協調が進むことを望む。

感想

このブログでもたびたび取り上げてきましたが、アメリカ大統領選挙でバイデン氏が勝利を確実なものとしました。

 

▼投票直後の激戦時

platon.hatenablog.jp

 

▼投票日前の懸念 

platon.hatenablog.jp

 

またバイデン氏の大統領就任を見越して、市場の先行き不透明感が薄らいだことやアメリカ製薬大手ファイザーのコロナワクチン治験効果が良好とみられたことなどから、NYダウは3万ドルに迫る勢いの高値をつけています。

ファイザーが本社を構えるアメリカのみならず、ヨーロッパや日本の株式市場でも株高傾向となっており、投資家がバイデン氏を歓迎しているようにも思えます。

 

ですが、先日投資家とバイデン氏との間に気になるニュースを目にしました。

www.nikkei.com

縛られた大統領」というワードチョイスがしびれますね。

かのアイスキュロスのギリシア悲劇「縛られたプロメテウス」を意識したのでしょうか。

f:id:Platon:20201110070332j:plain

ニコラ=セバスティアン・アダン「鎖に繋がれたプロメテウス」

f:id:Platon:20201110070657j:plain

ギュスターヴ・モロー「プロメテウス」

報道によると、バイデン氏が大統領になったとしても議会を支配できず、増税などの政策を実行できないと見られていることが要因とのことです。

 

どういうことかと言うと、今回大統領選と同時に議会の選挙も行われており、上院を共和党、下院を民主党がつかむ「ねじれ状態」になる可能性が高くなっているためです。

f:id:Platon:20201110084646p:plain

ねじれ状態のイメージ(左:共和党のシンボル、ゾウ 右:民主党のシンボル、ロバ)

元々は民主党が大統領選に加え上下両院でも過半数を握り、ハイテク企業への規制などが進むことで投資環境に変化が起こると考えられていました。

しかし議会がもし「ねじれ状態」であればバイデン氏は共和党にも譲歩し、政策が中道寄りになるのではないかとの期待が投資家の間で広がっているそうです。

そこまで考えているのか?数値に後から理由付けをしているだけではないか?と疑問に思いますが、株安より株高の方が良いと思いますので、これ以上は立ち入らないこととします。

 

またバイデン氏は勝利演説で「分断ではなく結束に努め、赤(共和党)や青(民主党)ではなく、合衆国の大統領となることを誓う」と語り、協調を促しています。

I pledge to be a president who seeks not to divide but unify, who doesn’t see red states and blue states, only sees the United States.

www.nikkei.com

演説の原文や動画はニューヨークタイムズやワシントンポストに掲載されていました。

動画を見たところ、バイデン氏が副大統領の時のオバマ氏のような、熱狂的な盛り上がりはあまり感じられませんでした。

 

またバイデン氏は国際協調にも意欲的であり、さっそく温暖化対策のパリ協定への復帰を宣言し、イラン核合意やWHOへの復帰も目指しているようです。

対中政策も、選挙戦でトランプ陣営が批判していたような中国とべったりという雰囲気は感じられず、むしろ人権問題を重視するバイデン氏は中国への圧力を強めるのではないかとの見方も出ています。

 

中国側はどのように反応しているかと言うと、まだトランプ大統領が敗北宣言をしていないためか、バイデン氏への祝意は見送っているようです。

11月9日の中国外交部の記者会見では、記者の質問に対し以下のように回答しています。(Google翻訳を一部修正)

記者:ほとんどのアメリカメディアがバイデン氏の大統領選勝利を発表し、多くの国がバイデン氏を祝福しました。なぜ中国は発言を遅らせているのですか?大統領選の結果はまだ不確定であると感じますか、それとも他の懸案事項がありますか?中国はいつお祝いのメッセージを送りますか?

報道官:最初の質問に関して、私たちはバイデン氏が選挙の勝利を発表したと承知しております。選挙の結果は、米国の法律および手続きに従って決定されると理解しています。

2番目の質問については、国際的な慣行に従って行います。

私たちは、中国と米国がコミュニケーションと対話を強化し、相互尊重に基づいてお互いの違いを上手く処理し、お互いの利益に基づいて協力を拡大し、中米関係の健全で安定した発展を促進するべきであると常に信じてきました。

記者:現在、中米関係は非常に冷え込んでいますが、中国は二国間関係を改善するためにバイデン政権にどのような具体的な行動を期待していますか?

報道官:すでに米国大統領選挙と中米関係に関する中国の立場を述べました。

記者:バイデン氏が就任した後、中国は中米経済貿易協定の第一段階を引き続き実施しますか?または、関連する条件を米国と再交渉するつもりですか?

報道官:関連する問題に関する中国の立場を述べました。中国と米国の経済および貿易の問題については、中国の管轄当局に問い合わせてください。 

記者:バイデン氏は中国に不利な対中政策を表明しています。バイデン氏が選挙に勝った今、中国は彼の政策アジェンダが中米関係に与える影響をどのように見ていますか?

報道官:関連する問題に関する中国の立場は一貫しており、明確であり、国家の主権、安全保障、開発の利益を保護するという中国の決意は揺るぎないものです。

私たちは常に、中国と米国がお互いの内政の相互尊重と不干渉に基づいて両者の違いを上手く処理し、中米関係の健全で安定した発展を促進するべきであると主張してきました。

米国の新政権が中国と同じ方向を向いて、一緒に働けることを期待しています。

 

中国語での会見が英語に翻訳されてHPに掲載されていたので、日本語への再翻訳にちょっと苦労しました。

中国語の元サイトと英訳版の両方をGoogle先生の力で日本語に翻訳してもらい、両者を突き合わせて訳を修正することで何とか読むことができました。

そのうち中国語も勉強しておきたいですね。

www.fmprc.gov.cn

 

会見内容については、日本の官房長官会見などと似ているなと思いました。

記者の質問に対して「~であることは承知している」「~についてはすでに述べた通り」と受け、「法律や手続き、慣行にのっとり~」と前例主義で切り返し、最後に「~を期待する」という希望形で終わらせる、みたいな感じでしょうか。

 

それはさておき、バイデン氏は国内の結束に加え、国際協調に向かう姿勢を見せています。

トランプ大統領が破棄や脱退を表明した国際的枠組みにアメリカが復帰するのは歓迎したいところですが、ここで思い出されることがあります。

それは19世紀までさかのぼり、ナポレオン戦争後のウィーン会議を風刺した「会議は踊る、されど進まず」という言葉です。

f:id:Platon:20201110085242j:plain

ウィーン会議の風刺画

簡単に説明すると、ナポレオンは革命を起こし破竹の勢いでヨーロッパに領土を広げましたが、やがてロシアに敗戦してエルバ島へ島流しされることになりました。

その後ヨーロッパ諸国はナポレオン戦争前の状態へ復帰しようと、領土の分割などについて相談するためオーストリアのウィーンで会議を開きましたが、それぞれの思惑がぶつかりなかなか進まず、しかも夜は舞踏会で時間を浪費していたために「会議は踊る、されど進まず」と風刺されるようになりました。

 

のんびりしていたところにナポレオンがエルバ島を脱出したとの知らせが入り、「このまま踊っていてはまたナポレオンにヨーロッパを支配されてしまう」とようやくお尻に火がついた各国代表は合意形成を急ぎ、保守反動体制たるウィーン体制が成立したのです。

ちなみにナポレオンはエルバ島脱出後にフランス帝位に就き百日天下を取りましたが、最終的にはさらに遠いセントヘレナ島に流されることとなりました。

 

現代に必ずしもあてはまるわけではありませんが、旧体制(多国間の枠組みによる国際的な協調体制)を一度崩しかけ(自国第一主義)、再度構築しなおそう(新政権)とするように思えるこの局面は、さながらウィーン会議と似ているように感じます。

日本を含めた各国は、踊って時間を浪費するのではなく、しっかりと未来を見据えた国際秩序を再構築してもらいたいです。

でないと、エルバ島からひょっこりナポレオンが来てしまうかもしれませんからね。